親権・養育費について


親権とは、子供の看護及び教育をする権利・義務のことをいいます(民法820条)。父母が離婚する際に未成年の子があれば、父母のどちらが親権者となるかを決定する必要があります(民法819条)。親権の内容としては、様々なものがあります。子供の養育が重要ですが、そのほかにも懲戒権等の身上監護権と子供を代表して法律行為を行う権利等の財産管理権があります(民法821、822、824、828条)。離婚後、親権者を変更するためには、家庭裁判所の手続による必要があります(民法819条6項)。具体的には、家庭裁判所に親権者変更の調停または審判を申立てることになります。この申立ては、父母のほか、子供の親族が行うこともできます。親権者の変更にあたっては、子供の福祉という観点から、現在の生活状況その他一切の事情を考慮した上で決定されます。

〜養育費〜

養育費の基準についてはとくに法律の規定はありません。ただ、家庭裁判所の調停・審判例では、子供の養育費は、父、母が、それぞれの収入や資力に応じて負担することとされています。親権者だからといって、すべて養育費を負担したり、その分多く養育費を負担するということはありません。養育費とは、子どもを監護、教育するのに必要な費用です。要するに子どもを育てるのに必要な費用ということになります。子どもを扶養することは親子関係にもとずく親の義務であり、離婚後子どもと一緒に生活しないことになったほうの親も扶養義務があります。したがって、子どもと一緒に生活しない親も養育費を支払うことになるのです。一般的にいえば、未成熟子が自立するまでに要するすべての費用ということになります。衣食住に必要な経費、教育費、医療費、最小限度の文化費、娯楽費、交通費等です。養育費は分割払いとされることが多いので、そのような場合には支払の期間、支払金額、支払方法について具体的に決めておく必要があります。相手がいいかげんな性格で資力にも問題があるような場合には、額が低くても一時金で受け取るほうが結果的には得ということもありえます。要するに支払方法と金額を総合的に判断して慎重に考える必要があるということです。協議、調停、裁判という離婚の形態にかかわらず、養育費というのは必ず取り決められるものです。また、離婚後でも養育費の分担について話し合うことは可能です。

養育費の算定のしかた

養育費の額を求めるものとして、いくつかの計算方法があります。話し合いで養育費の金額を決めるときの参考にしてください。
現在、生活保護基準方式が家庭裁判所が算定する場合の主流になっています。
養育費を算定するには、まず「必要生活費」を算出したうえで、その費用を夫婦間でどのように「分担」するかを考えます。

1. 実費方式
夫婦双方の最近数ヶ月間の実際の収入と生活費を基準にして、生活費を算出するものです。以前は家庭裁判所ではこの算定方式が主流でしたが、客観的妥当性に欠け、定額すぎるということで、現在では使われていません。
2. 標準生活方式
総理府統計局などの家計調査結果にもとづいて標準世帯の標準家計費を木曾にして、生活費を算出するものですが、親の生活水準に合わせた算定ができない難点があります。
3. 生活保護基準方式
厚生省が定めた生活保護基準額に基づいて、生活費を算定するものです。生活保護基準額は毎年更新され、年齢、性別、世帯構成、居住地域などによって基準が定められているために、算出すべき内容が、養育費を支払うべき親ごとのケースに当てはめやすいという利点があります。ただし、生活保護世帯に合わせてあるため、このまま適用すると低い金額になる傾向がありますので、実際には、算出された金額に上積みして決定されます。
4. 労研方式
昭和27年に、労働科学研究所で行われた生活費の実態調査に基づき算出した総合消費単位から最低生活費を算定する方式です。この方式は、1952年の調査に基づいているため、時代に合ったものでなく、消費単位をこのまま用いることは疑問視されています。

夫婦間の分担方法

1. 収入比率按分型
夫婦の収入額に応じて分担する方法です。
2. 余力の按分型
夫婦の収入からそれぞれの家庭の最低生活費を引いた残額の割合で、生活余力に応じて分担する方法です。
3. 生活程度比率按分型
子が父方、母方それぞれで生活したと仮定した場合に、それぞれの場合に子の生活費として支出する金額の割合で按分する方法です。

決まらない場合はどうすればよいか

協議できないときには、家庭裁判所に「養育費請求の調停申立」をします。調停が不成立となった場合には家庭裁判所が審判してくれます。

養育費はいつからいつまでもらえるか

養育費の調停、審判の申し立てをしたときからの養育費が認められる事例が多いようです。養育費の支払いは、一般的には、子どもが社会人として自立するまでとされています。これは必ずしも未成年者を意味するものではありません。高校卒業まで、18歳になるまで、成年に達するまでなど判決は分かれています。具体的には親の資力、学歴といった家庭環境によって判断されています。よく問題になるのが、大学進学の費用が養育費として請求できるか、ということです。裁判例は、大学教育をうけさせる資力がある父親への請求で争いになったケースで、その子どもに大学進学の能力がある限り、大学教育を受けさせるのが普通家庭における世間一般の通例であるとして養育費を認めています。

養育費はいくらもらえるか

子どもの養育義務は、親と同程度の生活を子どもに保証する「生活保持義務」であり、親はその資力に応じて未成熟の子どもを養育する義務を負います。一般的にいくらと決められるものではなく、それぞれの親の資力、生活水準によって決めるしかないのが実体で、ケースバイケースということです。養育費の額は、これを支出する親のレベルを標準にして定められますが、同居する親の生活水準とも関連しますから、一方の収入や生活レベルだけから断定はできません。母親に経済力がなければ、父親が全額を負担することになります。双方の資産、収入、職業、社会的地位などを考慮しながら、子ども1人あたり月2〜4万円から7万円で決められる例が多いようですが、それぞれの事情により異なる為一概には言えません。あくまで参考金額として理解してください。


養育費の支払いが滞った場合

養育費は、一般的には毎月払いが多いのですが、支払いが滞った場合には、養育費が家庭裁判所で決まったものについては、「履行勧告」「履行命令」を相手方に出してもらえます。
さらに、家庭裁判所が支払い義務者から支払いを受けこれを保管し、受取人に支払う「寄託制度」もあります。

協議で決めた場合
支払われない場合は、まず始めに支払いを催促します。それでも支払わない場合には裁判を提起します。勝訴判決が出てもなお支払わない場合には、相手の財産を差し押さえて強制執行します。このようにあまり実効性がないのが実情です。
協議によって離婚が成立した場合、当事者間で話し合って取り決めたことは、「離婚協議書」などの合意文書として書面にして残しておきましょう。
個人の合意文書だけでは法的な強制執行力はないので、合意内容を強制執行認諾文付きの公正証書にしておきましょう。
公正証書は、当事者が公正役場に行き、契約内容を示して公証人に作成してもらう公的な証書のことです。証拠力が強く、また証書の条項に執行認諾約款といって、本契約に違反した場合には強制執行をされても異議を申し立てない、という文言があれば訴訟をすることなく、強制執行ができます。
強制執行はできますが、養育費の場合1ヶ月数万円ですので強制執行をしてもかえって費用がかかるなど、あまり実効性がありませんので、家庭裁判所による履行確保(寄託・履行勧告・履行命令)の方法を利用します。しかし履行確保の方法を利用するためには養育費、慰謝料、財産分与を家庭裁判所(調停、審判)で決めた場合に限られますので、催促しても支払われない場合には、家庭裁判所に「養育費の支払調停申立」を申し立て決め直してもらうようにします。

家庭裁判所で決めた場合

家庭裁判所の調停、審判で決めた場合であっても相手が支払わないことがあります。
このような場合、最終的には強制執行をすることになりますが、その前に家庭裁判所の「履行確保」という制度を利用します。

◎ 寄託
調停、審判で決められた養育費がスムーズに支払われるように、養育費を支払うように決められた義務者の申し出により家庭裁判所が権利者のために金銭の寄託を受けて権利者に交付する制度です。この制度を利用するには、当事者の同意がなければ利用できません。
◎ 履行勧告
調停、審判で義務者が支払を遅らせたり支払わなかったりした場合に権利者の申し出により、義務の実効状況を調査した上で、その義務を自発的に実効するように勧告するものです。費用はかかりません。
◎ 履行命令
家庭裁判所が権利者の申立により、義務者に対し、相当な期間を定めて支払うように命令する制度です。履行命令に従わない義務者には、10万円以下の過料に処せられる制裁があります。申し立ての手数料は300円です 。


過去の養育費は支払ってもらえるか

養育費の請求には、時効というものがありませんから、過去にさかのぼって、一方の親だけが負担していた養育費についてもう一方の親に請求することができます。別居状態が相当期間続いたあとで離婚することになった場合、離婚後の養育費だけでなくて、離婚前の過去の養育費を支払ってもらえるのかという問題があります。夫婦が別居している場合に、夫婦の一方が支払った養育費は離婚までは婚姻費用の一部ですので婚姻費用として過去の養育費を請求できます。離婚するときには財産分与に過去の婚姻費用の清算という要素も含まれていますので、財産分与に含めて請求することもできます。

離婚の際に養育費の請求をしないと約束していた場合には、過去の養育費の分担を請求することは難しいでしょう。

育費に税金はかかるか

養育費として取得したお金は、養育に通常認められる範囲については非課税とされています。

養育費の変更はできるのか

養育事情に変化があれば養育費の免除ないしその減額、増額を求めることができ、その変更を家庭裁判所に求めることができます。協議で決めることができない場合には、家庭裁判所に「養育費増額請求の調停申立」「養育費減額請求の調停申立」をします。

養育費の請求をしないと約束した場合
離婚したい一心で、「離婚さえしてくれれば、今後一切、養育費の請求はしません」とに約束してしまうことがよくあります。法律上、子が親から扶養を受ける権利は放棄できないとされています。父母の約束は2人の間では効力があるものの、子は父母間の約束に縛られるわけではないからです。離婚の際に養育費の請求をしないと約束していた場合でも、その後の経済状況により養育費が十分ではなくなった場合には、養育費の請求ができますが、無条件に認められるわけではありません。将来的にかかるであろう養育費については請求することは可能ですが、過去の養育費の分担を請求することは難しいでしょう。

宇都宮家庭裁判所の審判で「離婚時の合意を最優先とする。ただし、その合意の内容が著しく子どもに不利益をもたらすものであったり、離婚後に事情が変わって、その合意の内容を維持することができなくなった場合には、子どもからの請求も認める」(昭和50.8.29)という条件を示し、その後の審判例の流れを方向づけました。

離婚の際に養育費として相当額のお金を受け取ることを条件に、養育費を請求しないと約束した場合には、子の福祉にとって好ましくない状態が生じている場合に限って請求を認める、請求を認める場合でも額を決めるにあたって養育費を請求しない約束の趣旨が考慮されて決められることになります。

子どもを妻が引き取り再婚した場合にも、養育費を支払い続けなければならないか

元の妻が再婚したということだけでは、養育費の支払いを中止する理由にはなりません。子どもの生活保持義務を負うのは再婚相手ではありません。しかし、子どもと再婚相手が養子縁組をするような場合には、養親にも法的に子どもの生活費を負担する義務が生じますので、養育費の減額が認められる場合があります。

〜離婚後の子どもに会う権利〜

離婚後、親権者または監護者にならなかった方が、子どもに面会したり一緒に時間を過ごしたりすることを面接交渉と言い、その権利を面接交渉権と言います。この面接交渉権は、民法などの条文に規定された権利ではありませんが、判例や家庭裁判所の実務でも認められています。

面接交渉の基準

面接交渉が認められる基準は子どもの利益、子どもの福祉です。会うことで子どもに悪影響があるような場合には、権利はあっても、面接交渉権が制限されます。

支払能力があるにもかかわらず養育費を負担しない親の場合には、子どもに対する愛情に疑問がありますので面接交渉権が制限される可能性があります。

面接交渉権を認める場合は具体的に

面接交渉を認める場合には、いつ、どこで、どのようにして、どのくらいなどといった条件を具体的に、詳細に決めておくことが必要です。それをしておかないと、将来の争いのもとになるようです。書面にしておけばよいでしょう。

決まらない場合はどうすればよいか

話し合いで決まらなければ、家庭裁判所へ、「面接交渉の調停申立」をします。それが不成立であれば、審判となります。

面接交渉を拒否された時は

子どもを引きとっている親に面接交渉を拒否された親はどうすればいいでしょうか。この場合には、家庭裁判所に「面接交渉の調停申立」を行い、子どもの面接交渉を求めることになります。ただし、親であれば無制限に認められるという権利ではなく、子どもの福祉を害したり、子どもの意思に反する場合は、制限される場合があります。いったん認められた面接交渉も、子供に悪影響を与えたり、子どものためにならないと認められる場合には、一時停止される場合があります。
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